阪急中津（その二）

（続き）

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中津商店街。
切れ切れになって垂れ下がるテントが撤去されたことは知っていた。しかし、新しく葺き直す計画はないようだ。雨に濡れずに買い物ができる小さな市場は昭和の時代の忘れ物。ここも３時過ぎにはシャッターが下りてしまう店が並んでいる。
路地に娘を立たせると、この商店街の中にあるアトリエ「空白」、八太栄里 solo exhibition「忘れようとしても思い出せない」のことを考える。あの時に見た絵の中の自転車は今でもそこにあって、画家の眼を通して知った身近な風景の不思議な魅力に改めて目を瞠る。２年前に購入した透明プラスチック製の「残留思念」は、ブルガリアヨーグルトの蓋と一緒に、私の手許すぐのところにある。
商店街を通り抜けて、駅へ戻る途中、トタン板に覆われた壁面を見つけた。然ほど錆びてはいないが、やはり目を惹く。母が亡くなるまで過ごしていた自立支援型介護付き老人マンションのロビーにあった油彩画を思い出している。赤錆のトタン屋根の小さな家が描かれていて、訪ねる度に足を留めて眺めていた。五輪真弓の「雨」という歌が好きだった所為もあるのだろう。
壁面に寄せるようにして小さな自転車が立てかけられていた。家で画像を見直してみて初めて、サドルが抜き盗られていることに気づく。傍近くでカメラを構えていた娘はそれを知っていたのだろうか。